「あなたが毎日食べる、そのお米。どのようにして作られているか、考えたことはありますか?」
今回、当店(実店舗・オンラインショップ)でお取り扱いしているお米の生産者、杉本一詩(すぎもと かずし)さんの田んぼを訪ね、お話を伺いました。
杉本さんは、32年もの間、農薬を使わずに米作りを続けてきた農家です。
その言葉の端々から伝わってきたのは、長年自然と向き合ってきたからこその厳しさと、これからの農業、そして"食の未来"への強い想いでした。
単なる農業の話にとどまらず、私たち自身が日々の食とどう向き合っていくのか。改めて考えさせられる時間となりました。
今回は、杉本さんから伺った貴重なお話を、皆さまにもお裾分けできればと思います。
逆境からの出発
〜自然農法との出会い〜
杉本さんの実家は、代々続く大地主でした。
両親は化学肥料を使った慣行農法で米作りを行っていましたが、大変な労力の割に、経営は赤字続きだったといいます。
幼い頃の杉本さんは、「やめてしまえばいいのに」と思うこともあったそうです。それでも、親たちは土地を守るために農業を続けていました。
やがて、サラリーマンとの兼業農家として、杉本さん自身も米作りを始めます。そこで待っていたのは、無農薬栽培の過酷な現実でした。
農薬が抜けた田んぼは草だらけ。虫や病気に悩まされ、収穫量は激減。
「稲刈りなのか、草刈りなのかわからないくらいだった」という言葉が、その大変さを物語っています。
そんな中、転機となったのが、他所の”きれいな田んぼ”との出会いでした。
水は澄み、稲はまっすぐ伸び、静まり返った田んぼ。
一見すると理想的に見える光景です。
しかし、自分の田んぼに戻ると、カエルや鳥の鳴き声が響き渡り、最初は「気持ち悪い」とさえ感じたといいます。
静かな田んぼとうるさい田んぼ
〜命の声を聴く〜
他所の田んぼと自分の田んぼを何度も行き来するうちに、杉本さんは、あることに気づきます。
きれいで静かな田んぼには、生き物の気配がほとんどない。
一方、自分の"うるさい"田んぼには、アメンボやドジョウ、さまざまな昆虫が息づいていました。
青サギや白サギ、赤とんぼが舞う光景は、豊かな生態系がある証です。
"害虫"とされる虫たちも、鳥の餌となり、自然の循環の一部を担っていました。
「今まで良いと思っていた田んぼは、本当に良い田んぼなのか。生き物がいない田んぼは、良い田んぼなのか。」
杉本さんは、静かできれいな田んぼではなく、賑やかで生き物の息吹が感じられる田んぼこそが、本当に良い田んぼなのだと確信します。
ここで、意外な本音も語ってくれました。
「実は、農薬や肥料を使わない理由は、人のため、安全のためが一番ではないんです。」
そこにあったのは、"本当に自然な田んぼを作りたい"という、とてもシンプルな願いでした。
杉本さん流 米作り
〜環境に合わせた知恵〜
草や病気の問題に直面しながらも、杉本さんは日本各地の農家を訪ね、さまざまな方法を試してきました。
しかし、気候や風土、土や水、日照や風。
環境が違えば、同じやり方は通用しません。
そこでたどり着いたのが、環境に大きな負担をかけない"焼津の作り方"でした。
苗作りでは、あえて苗を"いじめ"、茎を太く、根をしっかり張らせます。
稲は一本ずつ、間隔を空けて植える。風と光を通し、病気を防ぎ、米の味を引き出すためです。
すべては、農薬や肥料に頼らず、自然の力で育てるための工夫でした。
2050年、お米が消える?
杉本さんは、米作りの現場に立ちながら、日本の農業が抱える課題についても考え続けています。
農家の高齢化や、農業機械の更新が難しく、廃業せざるを得ない中小農家。2050年には、米が不足する可能性も指摘されています。
国内で自給できる唯一の主食である米を、これからの時代にどう残していくのか。
杉本さんの言葉には、そんな問いが込められていました。
田んぼから未来を考える
〜私たちにできること〜
32年間、無農薬で米を育ててきた杉本さんの田んぼは、単なる生産の場ではありません。生き物が息づき、自然の循環が続く場所です。
なかでも、強く心に残ったのが、この言葉でした。
「未来の子どもたちに、健全で、安全なものを届ける田んぼ作りをしよう。10年後、蛍の飛ぶ田んぼを見よう。」
さらに、こんな言葉も投げかけてくれました。
「毎日食べるものだからこそ、お米にもっと興味を持ってほしい。」
実際に田んぼに立って感じたこと
今回、社員数名で実際に田んぼに入り、稲刈りも体験しました。
そこには、本当にたくさんの生き物がいて、まさに”賑やかな田んぼ”そのものでした。
32年間、自然と向き合いながら試行錯誤を続けてきた米作り。
その現場に立ち、直接話を伺ったことで、私たちが日々食べているお米が、農家さんの大きな努力の上に成り立っていることを改めて実感しました。
杉本さん、貴重な体験とお話を、本当にありがとうございました。

